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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)208号 判決 1994年1月26日

イギリス国ケント エムイー20 7ピーエス

メイドストン ラークフィールド (無番地)

原告

キンバリークラークリミテッド

代表者

エイ・エフ・ステニング

訴訟代理人弁理士

北村修

鈴木崇生

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

産形和央

田中靖紘

湧井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和63年審判第5160号事件について、平成元年4月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、第2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年11月24日にイギリス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和57年11月24日、名称を「不織ウェブとそれを製造する方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき国際特許出願をした(昭和58年特許願第500034号)が、昭和62年11月20日に拒絶査定を受けたので、昭和63年3月22日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第5160号事件として審理したうえ、平成元年4月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月5日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

別添審決書写し記載のとおりであり、その特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨は、次のとおりである。

「互いに絡みあった溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであって、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれ散在していることを特徴とする不織ウェブ。」

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明は、特開昭48-41077号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)と周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものと判断し、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨、引用例の記載事項、本願第1発明と引用例発明との相違点の各認定は認め、両発明の一致点の認定は争う。

相違点についての検討のうち、周知事項の認定を認め、その余を争う。

審決は、本願第1発明と引用例発明との対比において、両発明の一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、相違点についての判断を誤り(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1

(1)  審決は、活性炭が高吸収性であることはよく知られているとしたうえで、これを前提に、引用例発明の「活性炭を混入した繊維ウェッブ」を本願第1発明の「高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブ」と言い換えても技術的意義に違いが生じないと認定し、この認定を根拠に、「両者は、互いに絡みあった繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであ」る点において一致すると認定した(審決書4頁18行~5頁9行)が、誤りである。

(2)  一般に、「吸収」の語は、狭義では「外部にあるものを内部に吸いとること。吸い込むこと」(岩波書店発行「広辞苑第二版増補版」の「吸収」の項、甲第3号証558頁)を意味し、「吸着」すなわち「吸いつくこと。界面現象の一。気体または液体中に含まれる或る物質が、これと接する他の物体の表面で特に大きい濃度を保つこと」(同「吸着」の項、同560頁)とは異なる現象として理解されているが、広義では、狭義の吸収と吸着の双方を含む意味で用いられており、本願明細書においても「吸収性粒体」あるいは「吸収性」という表現における「吸収」は上記広義の意味で用いられていて、その中には吸着も含まれている。

(3)  しかし、本願明細書で「高吸収性粒体」等の表現において用いられている「高吸収性」は、単に上記広義の吸収の程度が相対的に高い性質(流体吸い込み量が相対的に多い性質)を意味するのではなく、吸着を含まない狭義の吸収を行う性質であって、かつその中でも特別の物性を伴う高度の吸収を行う性質を意味する。より具体的にいえば、流体を瞬時に自重の数十倍ないし数千倍という程度に大量に吸収(狭義)し、その結果、流体を吸収した自らが膨潤し、しかも、圧力を加えても吸収した流体を容易に排出しない、という特別な形で極めて高度な吸収(狭義)を行う性質を意味する。

本願明細書における「高吸収性」が上記の意味であることは、以下に述べるところにより明らかである。

<1> 英文誌「TEXTILEINDUSTRIES」1980年7月号(甲第20号証)には、「エンド・ユーザ向け繊維の形成」の見出しの下に、「高吸収性材料」(原文「Super-absorbent materials」)の項目が設けられ、次の記載がある。

「高吸収性材料は6年前不織布に取り入れられたが、その名がついたのは、グラム/グラムベースで大量の流体を吸収する能力を持つためである。その吸収能力は、典型的には、コットン、レイヨン、ティッシュ、けば付パルプ等の従来の吸収材料よりもずっと高い。

数タイプの高吸収性材料が開発されている。これらの共通点は、水溶液中での親水性と不溶性とがかなり高い点である。また、一般的な構成は、橋かけによって不溶性を生じる、分子量の高い親水性ポリマーである。天然ポリマー、合成ポリマーの、両方とも使用されている。

初めての高吸収性材料は、澱粉・アクリロニトリル合成物であった。以降、橋かけされたカルボキシルメチル・セルロースや、橋かけされたポリアクリレートが開発されている。

塊状及びシート状の、3タイプの新たな高吸収性材料の研究中、ナショナル 澱粉アンド化学 コーポレイションのリッチマン、ソーン、シュラウチの3氏は、シート状のポリアクリレートが、他の高吸収性材料と比較して(吸収率、吸収能力、圧力下での保持力において)パフォーマンスがかなり高い点を発見した。

使い捨て不織布の吸収性改善による利点は、製品の形で立証されている。ポリアクリレート製のシート状の高吸収性材料を入れた場合には、おむつ及び女性用ナプキンは、漏出実験において高い能力を示した。特に有利な点は、かかる能力上昇には、製品のかさを増やす必要がない点である。」(同号証79頁左欄下から6行~右欄13行訳文)

英文誌「JTN」1983年2月号(甲第21号証)には、「旭化成、高吸収性不織布を開発」(原文「Asahi Chemical Developed Super-Absorbent Nonwove Fabric」)の見出しの下に、次の記載がある。

「旭化成工業株式会社は、高吸収性を有する、特殊セルロース製不織布を開発した。これまでに欧米で商品化された高吸収性材料は全て粉末ポリマー・タイプであったが、「スーパーAB」と仮称する旭化成の新繊維は、高吸収性が生来から備わった、世界初の不織布である。

「スーパーAB」は、ロール状の不織布ベンベルグを後処理し、そのハイドロキシル基部を高吸収性の親水性ラジカルに変換し、この繊維に対して、カルボキシルメチルセルロースの連続性単繊維の均質にもつれた構造を与えることによって得られる製品である。

「スーパーAB」の特徴は、旭化成の話では、(1)吸収前重量に対して40倍以上の生理食塩水を吸収する上に、初期吸収スピードが通常のポリマーの2倍で、しかも繊維能力が高い点、(2)シート状の繊維を利用できるために作業効率が高い点、(3)安全性に優れているために広範囲の分野に応用できる点、である。

旭化成は、100、000m2/月の生産能力を持つパイロット・プラントで、「スーパーAB」の応用を研究中である。旭化成は、衛生用品の内側吸収材の分野において、この新繊維の主な用途を模索中であると共に、医学上の吸収材の分野における売上拡大も計画中である。試験販売は、4月から開始される。」(同号証22頁右欄15~末行訳文)

また、特公平2-9823号公報(優先権主張1982年11月8日、1983年6月20日米国、出願昭和58年11月4日、甲第22号証)には、繊維ウェブと超吸収性材料の粒子又は小球体とからなる吸収性圧縮複合体の発明が記載され、「何年も前に、“超吸収性材料”、即ちその重量の何倍もの液体を吸収する物質が開発された。・・・更に、超吸収性材料は液体を吸収するにつれて膨潤しなければならない。もし超吸収性材料が膨潤できない場合は、液体の吸収は止むであろう。・・・何年間にもわたつて、超吸収性材料の効率的使用を可能にする構造を提供するための試みにおいて多数の技術が開示されている。」(同号証7欄35行~8欄26行)との記載のほか、随所に「超吸収性材料」の用語が使用されている。

特表昭61-501033号公報(昭和59年1月16日国際出願、甲第23号証)には、澱粉を主体とする増量したスーパーアブソーベンツ物質の調整方法の発明が記載され、「多量の水性流動体を吸収する能力をもつポリマー質物質は業界において良く知られており、また、通常スーパーアブソーベンツ(superabsorbents)と呼称されている。」(同号証2頁左上欄5~7行)との記載のほか、随所に「スーパーアブソーベンツ」の用語が使用されている。

これら各記載から明らかなとおり、本願第1発明の「高吸収性」に対応する英語である「スーパーアブソーベント(superabsorbent)」、「高吸収性」と同義である「超吸収性」、「スーパーアブソーベント(super-absorbent)」という性質を有する物質を意味する「スーパーアブソーベンツ」の用語が、それぞれ本願出願日の前後ころ、既に前記の特別な意味を有するものとして使用されていたのである。

<2> 一般に「高吸収性」あるいは「超吸収性」は被吸収物が流体の代表である水である場合には「高吸水性」あるいは「超吸水性」といわれる。

この「超吸水性」につき、昭和62年12月20日発行の竹本喜一著「夢の新素材・機能性高分子」(甲第12号証)に、「超吸水性高分子」の説明として、「これに対して、ここでのべる超吸水性高分子というのは、自重の数百倍から数千倍という比較にならないほど大きい吸水能力をもち、しかも外圧を加えても水を放出しないで保持できる材料である。この特殊な高分子は瞬時に吸収した多量の水によって膨潤(つまり、ふくれること)して寒天のようにゲル化し、水を手ばなさない構造に変るものと考えられている(図2-6)。高分子の種類にもよるが、多いものでは自重の数百倍から千倍近い量の水を吸収してゲル状に固まってくる。わかりやすく言うと、コップ一杯の水に〇・二~〇・三グラムの高分子粉末を入れただけで、全体が寒天のように固まってしまう。」と記載され、その説明のための写真が掲げられている(同号証35~37頁)。

また、1987年11月15日発行の増田房義著「高吸水性ポリマー」(甲第8号証)には、高吸水性ポリマーの特性として「高吸水性ポリマーは通常白色の粉末であり、水を注ぐと瞬時に吸水、膨潤して水全体をゲル化させる性質をもっている.特にアクリル酸ソーダ系やデンプン/アクリル酸系では、その吸水力は約1,000g/gに達する.」(同号証9頁2~5行)、「高吸水性ポリマーの特徴の一つは、加圧下での保水力である。すなわち圧力がかかってもいったん吸水した液体の大部分を保持できるという点であり、この点がパルプや紙と大きく異なる特徴である(図1.9).」(同9頁下から5~2行)、「デンプングラフト系高吸水性ポリマーの製法は、前述のように米国農務省の北部研究所・・・で最初に見いだされ、その後、グレインプロセシング、ゼネラルミルズケミカル、日澱化学、ダイセル化学、A.E.Staleyなどから改良特許が出されている.図3.1のようにこの製法はアクリロニトリルをセリウム塩触媒でデンプンにグラフト重合させたのち、アルカリで加水分解させる方法である。」(同24頁下から1行~25頁6行)と記載され、市販の高吸水性ポリマーの例の一つとして、本願明細書にも記載されている米国グラインプロセシング製の「Water Lock」が挙げられている(同6頁、表1.3)。

1989年1月1日発行の「情報・知識imidas 1989」(甲第9号証)の「高吸水性樹脂」の項には「自重の数十~数百倍の水を吸う樹脂。水を吸収する材料として、昔から脱脂綿や布が用いられてきた。これらは繊維の間の毛細管現象によって水を吸収するので、吸水量も少なく、圧力をかけると簡単に水を吐き出してしまう。これに対して高吸水性樹脂は吸水量が桁違いに大きく、材料そのものが水を吸うので、少々の圧力をかけても水を放出しない。高吸水性樹脂は、高分子電解質に橋かけや不溶部を導入した高分子である。デンプンやセルロースにアクリロニトリルをグラフト共重合させたもの、アクリル酸とビニルアルコールのブロック共重合物などが、粉末状や繊維状で実用に供されている。約一〇年前から生理用ナプキンとして実用化されはじめ、現在では子供用紙おむつを中心として世界で年間一〇万トンの市場規模に成長しており、そのうち約半分が日本で生産されている。紙おむつなどの衛生用品以外にも、園芸用の土壌保水剤、育苗用シート、・・・などに用いられはじめている。・・・」(同号証149頁)と記載されている。

被吸収物が水の場合の「高吸収性」あるいは「超吸収性」を意味する「高吸水性」あるいは「超吸水性」の用語が前記の意味で用いられていることは上記各記載により明らかである。

<3> 本願明細書において「高吸収性粒体」と「吸収性粒体」とは明確に区別されて用いられており、「高吸収性」は、<1>で挙げた各文献において「高吸収性」、「超吸収性」、「スーパーアブソーベント」として述べられ、流体が水である場合に、<2>で挙げた各文献において「高吸水性」あるいは「超吸水性」と記述されているものの意味で用いられている。

すなわち、本願明細書には、本願第1発明の「高吸収性粒体」を用いた不織ウェブについては、構成、作用、効果、用途に関し3頁21行~5頁13行に、図面の説明は7頁5~15行に、実施例の説明は17頁13行~24頁末行にそれぞれ詳細に記載されているのに対し、本願特許請求の範囲第12項の発明(以下「本願第2発明」という。)の「吸収性粒体」を用いたウェブについては、構成、作用、効果、用途に関し2頁4行~3頁20行及び5頁14行~6頁14行に、図面の説明は6頁17行~7頁4行に、実施例の説明は7頁16行~17頁12行に、それぞれ詳細に記載されており、両者は明確に区別して扱われている。

そして、このように区別されたもののうち、「高吸収性粒体」についての上記記載を見ると、高吸収性粒体の例として「変性でんぷん、変性セルローズ、あるいはアルギン酸塩」(甲第2号証の1、4頁1、2行)、「アイオワ州マスカタインのグレイン・プロセツシング・コーポレーシヨン社製の「ウオーター・ロツク J-500」(同20頁16~19行)が挙げられ、高吸収性粒体が流体の吸収の結果として膨潤すること(同4頁14、15行、4頁末行~5頁1行、23頁2、3行)、高吸収性粒体が流体の吸収の結果として膨潤するとき各粒体が互いに離散していないとゲルブロッキング現象が発生すること(同4頁9~12行、14~18行、4頁末行~5頁3行)、高吸収性粒体を用いたウェブは、生理用ナプキン、おむつ、失禁用パッドなどに用いることができること(同5頁11~13行)などが記載されており、これらの記載は、「高吸収性」が単に流体吸い込み量が相対的に多いことを意味するのではなく、前述した特定の意味で用いられていると考えなければ理解できないものであるから、本願明細書における「高吸収性」が上記意味で用いられていることは明らかといわなければならない。

(4)  ところが、審決が高吸収性のものとする活性炭は、吸着性ではあっても吸収性(狭義)でないことは本願出願前から周知であり、しかも、前述のとおり、吸着とは、気体又は液体中に含まれるある物質がこれと接する他の物体の表面で特に大きい濃度を保つことをいうのであるから、活性炭に吸着される物質の量が極めて少ないものであり、活性炭が前述の意味の高吸収性を有しないことは明らかである。

したがって、いかなる流体との関係においても、審決の「活性炭が高吸収性であることは良く知られており」(審決書4頁19、20頁)との認定が誤っていることは明らかであり、したがってまた、この認定を前提に行われた「「活性炭を混入した繊維ウェッブ」を「高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブ」と言い換えても技術的意義に違いが生じない」(同5頁3~5行)との認定が誤っていることも明らかといわなければならない。

特に流体の代表である水との関連においては、活性炭は、疏水性であり(例えば、昭和55年3月15日発行「改訂3版化学便覧応用編」、甲第6号証126~127頁)、狭義にせよ広義にせよ水を多量に吸収するなどということはおよそありえないから、水との関連において活性炭が高吸収性粒体であるとする審決は、初歩的な誤りを犯すものである。

(5)  本願明細書の特許請求の範囲第10項に、その第1項(本願第1発明)の実施態様項として「前記の粒体が粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかを含むものである請求の範囲第1項から第9項までのいずれかの不織ウェブ。」と記載されていること、上掲の各物質はいずれも上記の意味での高吸収性粒体ではないこと、特にこのうち粘土、カオリン、炭酸カルシウム、酸化アルミニウムが吸着剤としてよく知られていることは事実であるが、このことは、本願第1発明の高吸収性粒体が粘土等の上記各物質をも含むものとされていることを意味するものでない。

すなわち、本願第1発明は、「溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体から」なることを骨子とするものではあるが、常に「溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体」のみからなるものとされているわけではないから、これら両構成要件に加えて「吸収性粒体」を含んだものも当然に本願第1発明に含まれ、このような本願第1発明の実施態様項として上記第10項が規定されたとしても何ら不自然ではない。

このことは、特許請求の範囲第1項(本願第1発明)及び特許請求の範囲第10項の出願経過からも明らかである。

上記各項は、昭和60年8月7日付け手続補正書においては、それぞれ「ヨリが乱れた溶融噴射微細繊維と吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであつて、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれ散在していることを特徴とする不織ウェブ。」、「前記の粒体が粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかである請求の範囲第1項から第9項までの不織ウェブ。」であったものが、昭和63年4月20日付け手続補正書により、それぞれ「互いに絡みあった溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであって、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれ散在していることを特徴とする不織ウェブ。」、「前記の粒体が粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかを含むものである請求の範囲第1項から第9項までのいずれかの不織ウェブ。」と補正されることにより現在の最終的な形となったものであり、最終明細書における特許請求の範囲第1項の不織ウェブを構成する粒体は「高吸収性粒体」を含むものに限られることになり、その実施態様項である第10項の不織ウェブを構成する粒体として、「高吸収性粒体」と粘土等の「吸収性粒体」とが共存することが明らかにされたのである。また、同第11項に記載された「スポンジなどの有機材料」が狭義の高吸収性物質でないことは認めるが、同項についても同じことがいえる。

以上のとおり、特許請求の範囲第10、第11項の規定は粘土等の吸着性の物質を含むそこに挙げられた各物質が「高吸収性粒体」となりうることを意味するものではないから、上記各項の記載を根拠に「高吸収性粒体」には吸着性粒体も含まれるとする被告の主張は失当である。

2  取消事由2

(1)  審決は、不織ウェブを構成する繊維が、本願第1発明では溶融噴射微細繊維であるのに対し引用例記載の発明では連続したフィラメントであり溶融噴射によって形成したものではないとの両発明の相違点についての検討において、「溶融噴射微細繊維は従来周知の繊維であり、該繊維を不織ウェブを構成する繊維として用いること、そして該繊維を用いた不織ウェブは繊維相互を融着や固着せずとも繊維が相互に絡みあうことによって形状を保持すること及び良好な吸水性を有することは良く知られているところである。」(審決書5頁16行~6頁1行)としたうえで、「引用例記載の連続したフィラメントに代えて溶融噴射微細繊維を本願第1発明の不織ウェブを構成する繊維として用いることは前記周知の事項より当業者が容易に思いつくことであり、そのことによる効果も前記周知事項より予測できる程度のものである。」(同6頁4~9行)と判断した。

審決の上記検討中、審決が周知とした事項が本願の優先権主張日前周知であったことは認める。

しかし、本願第1発明の溶融噴射微細繊維と引用例発明の連続したフィラメントとは以下に述べるとおり全く異質のものであり、このように全く異質のものである両者を置き換えることは上記周知事項の下でも当業者にとって容易に思いつくことではないから、上記審決の判断は誤りである。

本願第1発明の溶融噴射微細繊維と引用例発明の連続したフィラメントとは、その太さが全く相違し、それ故に流体を吸収する能力において顕著な差異がある。すなわち、前者においては、「1ないし50ミクロンの直径のもの、特にその大部分が10ミクロン以下の直径であることが望ましい」(甲第2号証の1、3頁2~4行)とされるのに対し、後者においては、フィラメントの直径自体は引用例に記載されていないものの、実施例を見ると、直径0.25mm(250ミクロン)の紡糸ノズルを用いてフィラメントを作成しており(甲第7号証14欄末行~15欄1行)、両者には一桁以上の差異がある。

繊維の直径が小さいほど単位面積当たりの繊維本数が大きくなり、それだけ流体を吸い上げる通路数が大きく、かつ毛管径が小さくなって、流体を吸収する能力が大きくなるから、両者の太さの間にこのように大きな差異があるということは、とりもなおさず毛細管現象によって生ずる流体吸収量において両者間に大きな差異があることを意味する。

このようにして、本願発明の溶融噴射微細繊維は引用例発明の連続したフィラメントとは比較にならないほど大きな吸収力を有するのであり、両者にはまずこの点において明確な相違が存する。そもそも、本願第1発明の特色は、溶融噴射微細繊維の有するこの流体吸収能力の大きさに基づく優れた吸い上げ作用(wicking)と「高吸収性粒体」の吸収効果とを組み合わせて利用するところにあるのであり(甲第2号証の1、4頁4~11行、19~23行)、引用例のフィラメントにはこのような役割は全く与えられていない。

次に、太くかつ長く連続したフィラメントからなる不織布と、微細径の短繊維からなる不織布との間に、強度において大きな差異が生ずるのは極めて明瞭であり、強度の高い不織布を製造する方法として、短繊維を原料とする代わりに長繊維フィラメントを用いることを特徴とした技術が開発されている(昭和49年9月30日発行「繊維便覧 加工編」、甲第16号証985頁18~21行参照)ほどであるから、本願発明の溶融噴射微細繊細繊維と引用例発明の連続したフィラメントには、不織布とされた場合の強度において顕著な相違がある。

引用例発明は吸着フィルターに用いる不織ウェブを製造することを主な目的とするものであり(甲第7号証2頁左欄13~18行)、このフィルターは、流体通過位置の前後における圧力差によって濾過される流体が通過するのであるから、濾過速度を大きくするためには圧力差が大きいことが重要である。ところが、圧力差が大きい場合、本願第1発明の溶融噴射微細繊維を用いれば破壊されてしまうので、この繊維はフィルターとしての使用に耐えることができない。引用例発明において連続したフィラメントを用いているのは、この強度上の必要からであったと見る以外になく、引用例の記載(同2欄10行~3欄16行)から明らかである。このことは、引用例発明の不織ウェブがその主な用途とされているフィルターに用いられる場合、本願発明の溶融噴射微細繊維は不適当であり、引用例発明の連続したフィラメントが適していることを意味し、引用例の記載中にはこれを裏付けるものがある(同2欄3行~3欄16行)。

そうとすれば、このような意味を有する引用例発明の連続したフィラメントを本願第1発明の溶融噴射微細繊維に置き換えることが当業者に容易に思いつくことであるなどということはありえない。

(2)  以上のとおり、本願第1発明の溶融噴射微細繊維と引用例発明の連続したフィラメントとは全く異質のものであり、それぞれに要求されるところも異なっているのであるから、溶融噴射微細繊維を吸水性不織ウェブを構成する繊維として用いることが審決認定のとおり周知であったとしても、溶融噴射微細繊維を高吸収性粒体とともに用いることを当業者にとって容易に思いつくことということはできない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定、判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  広義及び狭義における「吸収」並びに「吸着」の用語が原告主張の意味で一般に用いられてきていること、本願明細書における「吸収」が広義のものとして用いられていることは認める。

また、原告が本願明細書中の「高吸収性」の意味であると主張する性質(以下「狭義の高吸収性」ということがある。)の物質が存在すること、変性でんぷん等原告主張の各物質がこの物質に属すること、「高吸収性」、「超吸収性」、「スーパーアブソーベンツ」の用語が狭義の高吸収性あるいはこの性質を持つ物質を表すものとして用いられることがあること、流体が水である場合この意味での高吸収性が「高吸水性」あるいは「超吸水性」といわれることがあること、「スーパーアブソーベント(superabsorbent)」、「超吸収性」、「スーパーアブソベンツ」、「超吸水性」あるいは「高吸水性」につき原告主張の各文献に原告主張の各記載があること、「高吸収性」及び「吸収性」に関し原告主張の記載が本願明細書にあること、そこに記載されている、膨潤、ゲルブロッキング現象は狭義の高吸収性と密接な関係を有する現象であること、生理用ナプキン、おむつ、失禁用パッドなどは狭義の高吸収性の物質の典型的用途であることも認める。

しかし、本願明細書には、そこで用いられている「高吸収性」が原告主張の特別の性質(狭義の高吸収性)を意味すると認めさせる記載はなく、逆に、それは流体を定量的な意味でなく相対的な意味で多量に吸収(広義)する性質を意味すると見なければ説明のつかない記載がある。

まず、本願明細書にはそこで用いられている「高吸収性」が原告主張の特別の性質(狭義の高吸収性)を意味することを直接示した記載は全くない。

次に、そこには、「高吸収性」。の材料の例として変性でんぷん等狭義の高吸収性の物質が挙げられているものの、「高吸収性」の物質がこれらの物質に限られることは何ら記載されていない。

さらに、本願第1発明(特許請求の範囲第1項)の実施態様項である特許請求の範囲第10項には、「高吸収性粒体」として広義の吸収性の粒体が挙げられている。すなわち、同項には「前記の粒体が粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかを含むものである請求の範囲第1項から第9項までのいずれかの不織ウェブ。」と記載されており、ここに挙げられた各物質は吸収性(広義)の粒体であって狭義の高吸収性の粒体ではないこと、特にこのうち粘土、カオリン、炭酸カルシウム、酸化アルミニウムが吸着剤としてよく知られていることは原告も認めるところである。

これらの事実に照らすと、本願第1発明(特許請求の範囲第1項)の「高吸収性粒体」には狭義の高吸収性の粒体以外に吸収性(広義)の粒体も含まれることは明らかといわなければならないから、本願明細書における「高吸収性」は狭義の高吸収性のみを意味するとする原告主張は失当である。

原告は、特許請求の範囲第10項の規定は、本願第1発明(特許請求の範囲第1項)の不織ウェブを構成する粒体として狭義の高吸収性の粒体に付加して狭義の高吸収性でない粘土等の粒体を共存させてもよいことを意味する旨主張するが、このように「高吸収性」粒体にそれ以外の粒体を付加して共存させた実施例、その作用・効果につき本願明細書に全く記載されていない以上、同項を原告主張のように理解することはできない。

また、同第11項の記載からも同様にいうことができる。

以上のとおりであるから、原告主張のような特別な性質(狭義の高吸収性)の粒体が本願第1発明にいう「高吸収性粒体」に含まれることは確かであるものの、上記「高吸収性粒体」に含まれるのはこれに限られるわけではなく、広義の吸収性を有する粒体であって流体吸い込み量が相対的に多いもの全体がこれに含まれるものといわなければならない。

(2)  活性炭は吸着剤の代表的な例であること、その活性炭は、大きな内部表面積を持った著しく多孔性の固体であって、外表面は全表面積の極く一部分にすぎず、このことから、内部表面を中心とするこの大きな表面で油等の流体をよく吸い取るものであることは、古くからよく知られている(例えば、昭和41年10月15日発行「化学大辞典2 縮刷版」の「かっせいたん 活性炭」の項、乙第3号証437~438頁、昭和55年3月15日発行「改訂3版化学便覧応用編」の「性質と用途」の項、甲第6号証127頁)

他方、本願明細書中の「高吸収性粒体」が吸着性を含む広義の吸収性の粒体であってその吸収の度合いが相対的に大きいものを意味することは前述したところであり、また、本願第1発明における「流体」には特別制限はなくその中に油が含まれることは本願明細書の記載自体で明らかであり原告も認めるところであるから、上記性質を有する活性炭が油という流体に対する関係で本願明細書にいう「高吸収性粒体」の一つであることは明らかである。

活性炭が疏水性であることは古くからよく知られたことであるから、審決が流体が水である場合についても活性炭が高吸収性であるかのように述べたのは適切でなかったが、上述したところに照らすと、審決が、引用例発明と本願第1発明との対比において、引用例発明の「活性炭を混入した繊維ウェブ」を本願第1発明の「高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブ」と言い換えても技術的意義に違いが生じないとし(審決書5頁3~5行)、これに基づき、「両者は、互いに絡み合った繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブ・・・である点において一致し」(同5頁5~9行)と認定したのは、結局正当であったといわなければならない。

2  同2について

(1)  引用例発明の連続したフィラメントと本願第1発明の溶融噴射微細繊維とは全く異質のものであるとの原告の主張は、以下に述べるとおり失当である。

引用例発明も本願第1発明も流体を保持する不織ウェブに関するものである点では同じ技術分野に属する発明である。

引用例発明の連続したフィラメントは、材料として例えばポリエステル、ポリプロピレン又はナイロンを使用する点で、本願第1発明の溶融噴射微細繊維と同一である(甲第2号証の1、3頁4~6行、甲第7号証3欄17行~4欄6行)。

引用例発明の不織ウェブは、「フイラメントが互いに無作為に絡み合い、フイラメントの交絡点の一部乃至全部が固着したシート状物に、活性炭がシート状物上に均一に分散してフイラメントと接着したり、フイラメントの網状構造の中に充填された構造」(甲第7号証8欄17行~9欄2行)になっているから、「高吸収性材料の粒体の直径は個々の微細繊維の直径よりもかなり大きく、従つてこれら繊維が形成する網目構造の中に絡まつているから、これら粒体をその位置に保持するには該繊維の表面粘着力を殆ど必要としない。」(甲第2号証の1、5頁7~10行)、「高吸収性材料の粒体の直径を個々の微細繊維の直径よりも比較的大きくし、これにより該粒体が繊維のネットワークの中に絡止されるようにすれば高吸収性材料の粒体を固定するのに繊維表面への粘着ないし接着を殆ど必要としない構成とすることができる点に注目されるべきである。」(同24頁4~9行)との本願明細書の記載で示される本願第1発明の不織ウェブの構造と類似したものということができる。

引用例に実施例として250ミクロンの紡糸ノズルを用いてフィラメントを作成したものが記載されていることは認めるが、引用例には引用例発明のフィラメントの直径がどの程度であるかということ自体は記載されておらず、一般的に、紡糸ノズルから吐出された糸は、数倍に延伸されることにより相当に細くなるものであって、250ミクロンのノズルから出た糸であっても数十ミクロン程度の太さにまで細くなることは周知であり、かつ、活性炭を保持するために繊維の直径が3ないし30ミクロン程度のものを用いることも普通のことである(乙第8、第9号証)から、1~50ミクロンの直径のもの、特にその大部分が10ミクロン以下の直径であることが望ましいとされる本願第1発明の溶融噴射微細繊維と引用例発明のフィラメントとの間にその太さの点で格別の相違はない。

本願第1発明の不織ウェブは、生理用ナプキン、おむつ、失禁用パットなどにも利用できるものであるが、これ以外に「例えば工業用の、又は調理用の拭きとり材として」(甲第2号証の1、3頁9、19行)も利用されうるものであり、他方、引用例発明の不織ウェブも、フィルターとして利用できるものではあるが、その用途はこれに限られるわけではなく、活性炭が油の吸着剤であることから油拭き取り材としても利用できるものである以上、両発明の不織ウェブの用途にも格別の相違はない。

(2)  以上のとおり、引用例発明の連続したフィラメントと本願第1発明の溶融噴射微細繊維との間には、その材料、太さ、これを用いた不織ウェブの構造、用途等において格別の相違はないから、原告も認める審決認定の溶融噴射微細繊維に関する周知事項(審決書5頁16行~6頁4行)の下では、審決認定のとおり、不織ウェブを構成する繊維として引用例発明の連続したフィラメントに代えて溶融微細繊維を用いることは当業者が容易に思いつくことであったといわなければならない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。甲第2号証の1~3については原本の存在についても争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  本願が昭和57年11月24日に出願された国際特許出願であることは当事者間に争いがない。したがって、本願には、昭和60年5月28日法律41号による改正前の特許法36条5項、6項が適用されるところ、甲第2号証の1~3により認められる本願明細書の記載によれば、本願第1発明に係る特許請求の範囲は、その第1項を必須要件項とし、これに続く第2項~第11項を実施態様項とすることが認められる。

このうち、本願第1発明の要旨を示す特許請求の範囲第1項と、「粒体」に関し記載した第2、第7、第10及び第11項を摘記すると、以下のとおりである。

「1 互いに絡みあった溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであって、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれて散在していることを特徴とする不織ウェブ。」

「2 前記粒体がウェブとの接触前に静電荷を与えられていたものである請求の範囲第1項の不織ウェブ。」

「7 前記の粒体の最大寸法が1ミクロンから100ミクロンのあいだである請求の範囲第1項から第6項までのいずれかの不織ウェブ。」

「10 前記の粒体が粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかを含むものである請求の範囲第1項から第9項までのいずれかの不織ウェブ。」

「11 粒体がスポンジなどの有機材料の粒体を含むものである請求の範囲第1項から第10項までのいずれかの不織ウェブ。」

(2)  そして、上記特許法36条5項、6項の規定の下で、特許請求の範囲に実施態様項として記載できるものは、必須要件項との関係においては、必須要件項に記載されている発明の構成に欠くことができない事項を技術的に限定して具体化したものに限られる(昭和60年10月30日通商産業省令第45号による改正前の特許法施行規則24条の2第2号参照)から、上記各実施態様項もこの趣旨において理解すべきものである。

この見地から、上記各実施態様項を見ると、第2項の「前記粒体」、第7、第10項の各「前記の粒体」、第11項の「粒体」のいずれもが必須要件項の「粒体」すなわち「高吸収性粒体」を指すことは、その文脈上からも明らかであり、同各項は、この高吸収性粒体を具体化した態様を記載して、必須要件項に記載された不織ウェブの発明を技術的に限定したものと認められる。

すなわち、第2項は、高吸収性粒体が「ウェブとの接触前に静電荷を与えられていたものである」こと、第7項は、高吸収性粒体の「最大寸法が1ミクロンから100ミクロンのあいだである」こと、第10項は、高吸収性粒体が「粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかを含むものである」こと、第11項は、高吸収性粒体が「スポンジなどの有機材料の粒体を含むものである」ことを規定していることは、明らかといわなければならない。

この第10、第11項に掲げられた各物質が、いずれも吸収性(広義)の物質であって、原告のいう狭義の高吸収性(以下、「狭義の高吸収性」という。)の物質ではないこと、特に、このうち粘土、カオリン、炭酸カルシウム、酸化アルミニウムが吸着剤としてよく知られていることについては当事者間に争いがないから、本願第1発明に関する特許請求の範囲各項の記載を統一的に把握すれば、本願第1発明の「高吸収性粒体」は、狭義の高吸収性の粒体に限られず、吸収性の粒体、特に吸着剤である粘土等であっても具えることのできる性質を含むものと理解しなければならない。

(3)  原告は、本願特許請求の範囲第1項の「高吸収性粒体」は「吸収性粒体」とは意味を異にし、狭義の高吸収性の粒体のみをいうことを前提として、本願第1発明は「溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体」のみからなるものとされてはいないから、これら両構成要件に加えて、「吸収性粒体」を含んだものも、本願第1発明に含まれ、このような本願第1発明の実施態様項として、上記第10、第11項が規定された旨主張する。

しかし、この主張は必須要件項に記載された技術事項とは技術的意義を異にする事項を付加したものが実施態様項として記載されたことをいうものであって、前示法条の趣旨に沿わないものであるうえ、上記各項の日本語の文脈にも反するものである。

このように、本願第1発明に関する特許請求の範囲各項の関連から見る限り、本願第1発明の「高吸収性粒体」は狭義の高吸収性の粒体に限られないと解釈する以外にない。

(4)  そして、特許の要件を審査する前提としてなされる特許出願に係る発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであるから、以下、本願明細書中に、上記解釈を妨げる記載が認められるか否かを検討する。

本願明細書(甲第2号証の1~3)には、

「この発明による不織布は、溶融噴射された熱可塑性の(好ましくはポリマー性の)微細な繊維と、吸収性の粒体ないし顆粒、とからなり、この粒体ないし顆粒は繊維がまだ粘着性を有しているあいだにこれと接触させることにより該繊維に強固に接着されたものである。」(同号証の1、2頁4~8行)

として本願発明の不織布について述べ、この粒体ないし顆粒につき、

「上記の布が例えば工業用の、又は調理用の拭きとり材として使用される場合には、粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、あるいは酸化アルミニウム等の安価な顆粒状吸収剤で上記の粒体が製造されるであろう。煆焼粘土、とくに煆焼カオリン、が極めて有用である。このものは結晶構造をもち、一般的に中空状の顆粒を与えるのであり、この顆粒は他の粘土よりも優れた吸収性を示す。

上記粒体は比較的小さく、例えば1ミクロン以下であり、大きくとも高々100ミクロン程度までとされ、単位粒に分散した状態、ないしは数粒が凝集した状態で導入される。

高吸収性の材料からなる粒体は、これら高吸収性粒体が実質上個々の単位粒の状態でウエブ全体にばらばらに分散していることを特徴とするようなウエブ、を製造する場合に極めて好都合に用いられる。(同3頁9~末行)

と説明した後、これに続いて、「高吸収性材料」につき、

「顆粒状の高吸収性材料(例えば、変性でんぷん、変性セルローズ、あるいはアルギン酸塩)が溶融状態にある溶融噴射繊維に添加されると予期しない顕著な長所を備えたウエブを与える。この場合に得られるウエブは、溶融噴射繊維の優れた吸上げ作用(wicking)、即ちこれら繊維間にはたらく強い毛細管現象により、流体物質が個々に細かく分散した高吸収性粒体のところへ速やかに運ばれる、という性質をもつ。このように各粒がたがいに離散していることから、実際上ゲルブロツキングによつて何ら妨げられることなく流体物質がよく吸収されるのである。上記の離散分布状態は例えば、繊維流へ供給されるまえの粒体に電荷を与えるという方法で実現できるであろう。

ゲルブロツキング現象は上記の高吸収性材料が流体吸収の結果として膨潤するときに発生するものである。つまり、この膨潤により高吸収性材料中の毛細管の寸法が相当に小さくなり、実際上これが閉塞してしまうことがあるからである。単位重量当りの表面積を最大にしようとして種々の試みがなされてきたが、溶融噴射繊維に個々に離散した高吸収性粒体を組合わせることにより前者の優れた吸上げ作用(wicking)と後者の吸収効果とを組合わせて利用する、という試みはこの発明以前には全く見当たらない。

流体の吸収に伴い、上記の微細繊維と高吸収性材料とからなる複合体は膨潤するけれども各々の高吸収性粒のあいだの離隔した位置関係はなお保たれている。従つて、膨潤はしてもゲルブロツキングは起らない。このことは上記複合体中の高吸収性材料の添加比率が高くこれに応じて吸収容量が増大し水平方向の吸上げ作用が観察されるような場合にも当てはまることである。

高吸収性材料の粒体の直径は個々の微細繊維の直径よりもかなり大きく、従つてこれら繊維が形成する網目構造の中に絡まつているから、これら粒体をその位置に保持するには該繊維の表面粘着力を殆ど必要としない。

高吸収性の粒体を含有したウエブは、例えば生理用ナプキン、おむつ、失禁用パツドなどに利用することができる。」(同4頁1行~5頁13行)

と記載し、さらに、実施例中に「高吸収性材料」として「アイオワ州マスカタインのグレイン・プロセッシング・コーポレーシヨン社製の「ウオーター・ロックJ-500」(同20頁16~19行)を挙げていること、これらの記載のほかに、本願明細書には、「高吸収性」の有する意味に関連して、その用語の定義を含め、特に注目すべき記載はないことが認められる。

本願明細書に「高吸収性材料」の例として記載されている上記各物質が狭義の高吸収性の物質であること、そこに記載されている、膨潤、ゲルブロッキング現象は狭義の高吸収性と密接な関係を有する現象であること、生理用ナプキン、おむつ、失禁用パッドなどの用途は狭義の高吸収性の物質の典型的用途であることについては当事者間に争いがないから、上記の記載は、狭義の高吸収性材料の粒体を用いた不織ウェブが、本願第1発明の不織ウェブの有力な例の一つであるとされていることを示すものということはできる。しかし、「高吸収性」という用語は、単に度合いが相対的に大きいことを示す「高」の語の通常見られる用法に照らすと、「吸収性」の度合いが相対的に大きいことを意味するにすぎない場合もありうるのであるから、本願第1発明における「高吸収性」が狭義の高吸収性に限られると解釈する以外に解釈の余地も残されていないことを一義的に示すものとはいうことができない。

(5)  「高吸収性」の用語の意味に関して原告の挙げる各文献に原告主張の各記載があることについては当事者間に争いがなく、これらの記載によるときは、「スーパーアブソーベント(superabsorbent)」、「超吸収性」、「スーパーアブソーベンツ」、「高吸水性」「超吸水性」の用語がそれぞれ原告主張の意味で用いられていると認めることができる。

しかし、上記事実から明らかになるのは、これらの用語が、多くは本願出願後の文献に、狭義の高吸収性あるいはこの性質を有する物質を意味するものとして使用されることがあったということだけであり、ここから直ちに、本願明細書中の「高吸収性」の用語が狭義の高吸収性の意味で用いられていると断定することは到底できないものといわなければならない。

このように、本願明細書の記載及び原告の挙げる文献での「高吸収性」の用語の使用は、上記特許請求の範囲各項の関係から導かれる解釈の妨げとならず、他にもこの妨げとなる資料は、本件全証拠を検討しても見出せない。

(6)  原告は、本願の特許請求の範囲第1項と第10、第11項との関係に関する原告主張の点は、本願の出願経過から明らかであると主張する。

甲第2号証の2・3によれば、本願明細書の特許請求の範囲第1、第10、第11項の各記載は、昭和60年8月7日付け手続補正書においては、それぞれ「ヨリが乱れた溶融噴射微細繊維と吸収性粒体からなり流体を保持しうるウエブであつて、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれ散在していることを特徴とする不織ウェブ。」、「前記の粒体が粘土、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかである請求の範囲第1項から第9項までのいずれかの不織ウェブ。」、「粒体がスポンジなどの有機材料の粒体である請求の範囲第1項から第9項までのいずれかの不織ウェブ。」であったものが、昭和63年4月20日付け手続補正書により補正されて現在のものとなったことが認められ、これによれば、最終補正により、第1項につき、「吸収性粒体」とあったものが「高吸収性粒体」と、第10項につき、「前記の粒体が粘度、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかである」とあったものが「前記の粒体が粘度、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム及び煆焼カオリンのいずれかを含む」と、第11項につき、「粒体がスポンジなどの有機材料の粒体である」とあったものが「粒体がスポンジなどの有機材料の粒体を含むものである」と各補正されたことが認められる。

しかし、この補正の経過を、補正後の特許請求の範囲第1、第10、第11項を原告主張のように解釈すべき根拠とすることはできない。本願明細書の特許請求の範囲の記載の有する意味はその客観的意味によって決する以外になく、仮に、原告が上記補正により本訴で主張しているような意味を特許請求の範囲第1、第10、第11項に与えようと考えていたのであれば、それにふさわしい補正を行うべきであったのであり、それを行っていない以上、その主観的意図と異なる結果が生じたとしても、これを甘受する以外にないものといわなければならない。

補正の経過を根拠とする原告主張も採用できない。

(7)  一般に、「吸収」の語は、狭義では「外部にあるものを内部に吸いとること。吸い込むこと」を意味し、「吸着」すなわち「吸いつくこと。界面現象の一。気体または液体中に含まれる或る物質が、これと接する他の物体の表面で特に大きい濃度を保つこと」とは異なる現象として理解されているが、広義では、狭義の吸収と吸着の双方を含む意味で用いられており、本願明細書においても「吸収性粒体」あるいは「吸収性」という表現における「吸収」は上記の広義の意味で用いられていて、その中には狭義の「吸収」の外に「吸着」も含まれていることについては、当事者間に争いがない。また、本願発明における「流体」には水以外に油等が含まれることも当事者間に争いがない

そして、昭和41年10月15日発行「化学大辞典2縮刷版」の「かっせいたん 活性炭」の項(乙第3号証437~438頁)、昭和55年3月15日発行「改訂3版化学便覧応用編」の「性質と用途」の項(甲第6号証127頁)の記載によれば、活性炭は吸着剤の代表的な例であること、その活性炭は、大きな内部表面積を持った著しく多孔性の固体であって、外表面は全表面積の極く一部分にすぎず、このことから、内部表面を中心とするこの大きな表面で油等の流体をよく吸い取るものであることは、古くからよく知られていたことが認められる。

上記事実によれば、引用例発明で用いられる活性炭は、水以外の油等の流体に対する関係で本願明細書にいう「高吸収性粒体」の一つであるということができる。このことは、本願明細書中の「煆焼粘土、とくに煆焼カオリン、が極めて有用である。このものは結晶構造をもち、一般的に中空状の顆粒を与えるのであり、この顆粒は他の粘土よりも優れた吸収性を示す。」(甲第2号証の1、3頁13~16行)との記載から明らかなとおり、優れた吸収性を示すものとされている煆焼カオリンが、本願第1発明の「高吸収性粒体」に含まれるとされていることからも裏付けられる。

また、引用例に引用例発明の不織ウェブが活性炭をよく保持する旨が記載されていることは取消事由2に関連して後に述べるとおりである。

そうとすれば、審決が、引用例発明と本願第1発明との対比において、疏水性であると従来から知られていたことにつき当事者間に争いのない活性炭が流体が水である場合についても高吸収性である旨述べたのは明らかに誤りであるが、審決のいわんとするところは、結局、「活性炭を混入した繊維ウェブ」を「高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブ」と言い換えても技術的意義に違いが生じない(審決書5頁3~5行)ということであり、審決のこの認定は正当であって、審決の上記誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではなく、審決が、これに基づき、両者は、互いに絡み合った繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブである点において一致する旨(同5頁5~9行)認定したのは、結局正当であったといわなければならない。

原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  同2について

(1)  審決の「溶融噴射微細繊維は従来周知の繊維であり、該繊維を不織ウェブを構成する繊維として用いること、そして該繊維を用いた不織ウェブは繊維相互を融着や固着せずとも繊維が相互に絡みあうことによって形状を保持すること及び良好な吸水性を有することは良く知られているところである。」(審決書5頁16行~6頁1行)との認定は、原告も認めるところである。そして、上記認定中の「吸水性」は流体としてその代表的なものである水を取り出して論じたためになされた表現であって、それをより一般的に「吸収性」と置き換えることも可能であることは、前示のところから明らかである。

他方、引用例に、「空気流とともにフィラメントを捕集する際に、活性炭を混入して繊維ウェッブとし、該ウェッブを加熱加圧して得られた不織布は、連続したフィラメントが互いに無作為に絡み合ったシート状物に活性炭が均一に分散してフィラメントと接着したり、フィラメントの網状構造の中に充填された構造になっていて、吸着効果が均一であることが記載されている。」(審決書4頁3~10行)との審決認定も原告の認めるところであり、さらに、引用例に「本発明によれば活性炭が繊維ウエツブ中に混然一体として存在するために活性炭が均一に存在し、かつ剥離しがたい。したがつて不織布の吸着効果が均一であり、耐久性にすぐれており吸着フイルター等に使用する場合に非常に使いやすい利点がある。」(甲第7号証3欄11~16行)、「そして得られた不織布は連続したフブイラメントが互いに無作為に絡み合い、フイラメントの交絡点の一部乃至全部が固着したシート状物に、活性炭がシート状物中に均一に分散してフイラメントと接着したり、フイラメントの網状構造の中に充填された構造になり、寸法安定性も著しく良くなる。」(同8欄16行~9欄3行)と記載されていることが認められる。

そうとすれば、不織ウェブを構成する繊維として引用例発明の連続したフィラメントに代えてこのように類似の構造と機能を有する周知の溶融噴射微細繊維を使用して、本願発明の構成とすることは、当業者にとり容易に思いつくことであったということができる。

仮に、原告主張のとおり本願第1発明に用いられている周知の溶融噴射微細繊維が引用例発明の連続したフィラメントに比べて流体を吸収する能力において顕著に優れているとしても、そのことは、むしろ後者に代えて前者を採用することをより思いつきやすいものとする要素というべきであり、上記判断の妨げとならない。

(2)  原告は、引用例発明のフィラメントと本願第1発明の繊維とは全く異質のものであるとして、種々の理由を挙げる。

しかし、引用例発明の用いるフィラメントの材料が、「ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンー1などのポリオレフイン、ナイロン6、ナイロン66、ポリキシリレンアジパミドなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレートなどの線状ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系重合体およびこれらの共重合体等」(甲第7号証3欄17行~4欄6行)であり、本願第1発明の用いる繊維が、「例えばポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維またはナイロン繊維」(甲第2号証の1、3頁4~5行)であって、同じ材料を用いるものであることは明らかであり、乙第8、第9号証によれば、活性炭を保持する繊維状吸着材において、繊維の直径が3ないし30ミクロン程度のものを用いることも、本願出願前普通に行われていた技術であると認められる。

そして、引用例発明の不織ウェブが主としてはフィルタとしての使用を意図したものであったとしても、それを吸い取り等の用途に当てることが排除されているわけではないことは、引用例中に、用途を限定する記載はなく、用途としてフィルタが挙げられているときも「包装やフイルターなどの」(甲第7号証2欄11行)、「吸着フィルター等に」(同3欄15行)など例示として挙げられていることから認められるところである。

また、不織ウェブに必要とされる強度は、フィルタとして使用される場合とそれ以外の吸い取り等の用途に当てられる場合のいずれについて見ても、一律に決まっているわけではなく、その目的を達するに必要とされる強度を有すれば足ることも明らかである。

そうとすると、引用例発明も本願第1発明も流体を保持する不織ウェブに関するものであって、その技術分野を同じくするものであることからすれば、原告の主張するところは、当業者が、引用例発明と上記周知事項とから、引用例発明の連続したフィラメントに代えて、周知の溶融噴射微細繊維を使用することに想到する何らの妨げとならないことは、明らかといわなければならない。

審決の相違点についての判断は正当であり、原告の取消事由2の主張も理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告のための附加期間の付与にっき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

昭和63年審判第5160号

審決

イギリス国 ケント エムイー20 7ピーエス メイドストン ラークフィールド(無番地)

請求人 キンパリークラーク リミテッド

大阪府大阪市北区豊崎5丁目8番1号 北村修国際特許事務所

代理人弁理士 北村 修

昭和58年特許願第500034号「不織ウェブとそれを製造する方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和58年 6月9日国際公開 WO83/01965、昭和58年11月24日国内公表 特許出願公表昭58-502005号)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ. 本願は、昭和57年11月24日(優先権主張昭和56年11月24日 イギリス国)に出願された国際特許出願であって、その発明の要旨は、昭和63年4月20日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項、第12項、第24項及び第34項にそれぞれ記載された次のとおりのものにあると認められる。

1 互いに絡みあった溶融噴射微細繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであって、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれ散在していることを特徴とする不織ウェブ。(以下、第1発明という)

12 溶融噴射熱可塑性微細繊維と、吸収性粒体ないし顆粒とからなり、この粒体ないし顆粒が、なお粘着状態にあるあいだの前記繊維に接触させられこれに強固に接着させられたものである流体保持性の不織ウェブ。(以下、第2発明という)24 溶融噴射されたポリマー微細繊維流を形成するべく溶融ポリマー材科を押出す工程と、高吸収性粒体に静電荷を与える工程と、前記粒体を微細繊維流に供給する工程と、次いでこれら繊維を固めてウェブとしこのウェブ全体に亘り上紀粒体が実質上個々に分かれ散らばった状態にあるものとする工程、とからなる流体保持性の不織ウェブを製造する方法。(以下、第3発明という)

24 溶融噴射されたポリマー微細繊維流を形成するべく溶融ポリマー材料を押出す工程と、これら微細繊維がなお粘着性を帯びた状態にある上紀の微細繊維流に向けて吸収性粒体を供給し該流内へ導入する工程と、続いて上記繊維を急冷ないし徐冷して硬化させる工程と、次いでこれらの硬化繊維を固めてウェブとする工程、とからなる流体保持性の不織ウェブを製造する方法。(以下、第4発明という)

Ⅱ. 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭48-41077号公報(昭和48年6月16日発行)(以下、引用例という)には、特に公報第2頁左上欄第5行ないし第16行、同頁右上欄第17行ないし第20行及び第3頁右上欄第16行ないし左下欄第3行の記載を参酌すると、

空気流とともにフィラメントを捕集する際に、活性炭を混入しで繊維ウェッブとし、該ウェッブを加熱加圧して得られた不織布は、連続したフィラメントが互いに無作為に絡み合ったシート状物に活性炭が均一に分散してフィラメントと接着したり、フィラメントの網状構造の中に充填された構造になっていて、吸着効果が均一であることが記載されている。

そして、上記活性炭が粒体であること及び活性炭が水を吸着し得るものであることは、「本発明で使用する活性炭としては、平均粒径が0.1μ以上、特に0.1~200μの粉末活性炭が好ましい。」(同第2頁右上欄第9行ないし第13行)及び「製造中に水を活性炭が吸着し」(同第1頁右欄第8行ないし第9行)から認められる。

Ⅲ. 本願第1発明と引用例記載のものとを対比すると、活性炭が高吸収性であることは良く知られており、又、水を吸着し得る活性炭を分散したウェッブが水を保持しうることは容易に予測できることであり、水は流体の代表的なものであるから、「活性炭を混入した繊維ウェッブ」を「高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブ」と言い換えても技術的意義に違いが生じないので、両者は、互いに絡みあった繊維と高吸収性粒体からなり流体を保持しうるウェブであって、その全体を通じ粒体が実質上個々に分かれ散在している不織ウェブである点において一致し、不織ウェブを構成する繊維が、本願第1発明では溶融噴射微細繊維であるのに対して、引用例記載のものでは、連続したフィラメントであり溶融噴射によって形成したものではない点において相違する。

上記相違点について検討した結果は次のとおりである。

溶融噴射微細繊維は従来周知の繊維であり、該繊維を不織ウェブを構成する繊維として用いること、そして該繊維を用いた不織ウェブは繊維相互を融着や固着せずとも繊維が相互に絡みあうことによって形状を保持すること及び良好な吸水性を有することは良く知られているところである。(例えば特開昭54-59466号公報、特開昭53-70173号公報、特開昭50-121570号公報参照)。してみると引用例記載の連続したフィラメントに代えて溶融噴射微細繊維を本願第1発明の不織ヴェブを構成する繊維として用いることは前記周知の事項より当業者が容易に思い付くことであり、そのことによる効果も前記周知事項より予測できる程度のものである。

相違点については上記説示のとおりであるから、本願第1発明は引用例記載の発明及び前記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

Ⅳ. 以上のとおりであるから、本願第1発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、第2発明、第3発明及び第4発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成1年4月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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